広背筋の役割を再定義する:肩甲帯・体幹・骨盤の連動性からみた臨床応用

こんにちは。整体サロンpirka-ピリカ-の山田です。

広背筋は、背中の後面に広く位置する大きな筋肉で、上肢・体幹・骨盤の連動に関与する重要筋です。
しかし臨床現場では、「背中の大きな筋=広背筋」という漠然としたイメージで扱われがちであり、背部痛や肩関節可動域に関係する筋肉といった認識がされることが多いです。

本稿では、広背筋の基本的な構造と機能を解説しつつ、臨床現場で活用できる知識に関してお伝えしていきます。

整体師、柔道整復師、理学療法士、鍼灸師、セラピスト、トレーナーといった身体についての専門職の方々の臨床への一助になれば幸いです。

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2025年10月7日

 広背筋の解剖学的基礎

広背筋は非常に広範な起始と比較的狭い停止を持つ「広がる/収束する筋群」の典型です。
また臨床で施術アプローチを考える上で、起始と停止・筋線維走行・腱部構造などを理解することが不可欠ですのでしっかりと確認していきましょう。

◆広背筋
起始:Th7〜Th12の棘突起、胸腰筋膜、腸骨稜
停止:上腕骨の結節間溝(小結節稜)
神経支配:胸背神経(C6~C8)
作用 :上腕の内旋・内転・後方挙上、呼気の補助

広背筋は解剖生理学的には複数の線維群に分節され、筋の異なる部位が異なる運動条件で強く働く可能性があります(筋内分節化)。部位ごとに等尺性および動的運動時における広背筋の筋活動に差があるとする研究もあるので、同広背筋内でも部位間の協調性が重要であることが示唆されています。

このように広背筋は、起始・停止の広がり、筋膜との連結、腱の捻転構造、そして筋分節的機能を考慮する必要がある複雑な構造を持っています。

 広背筋の機能的役割と運動連鎖

広背筋は広範囲に付着する筋肉のため複合的な運動連鎖に関係します。
臨床ではこれらの役割を理解したうえで、機能低下がどのような運動障害をもたらすかを考察していく必要があります。

まず基本的な作用の他に、腕が固定された状態(上肢を挙上・固定など)においては、広背筋は体幹・骨盤を引き上げる補助作用を持ちます。
例えば、腕を天井に固定したまま体を上に引き上げる動作(クライミング様動作)などで、体幹引き上げ・骨盤挙上の補助役としても機能します。

また胸腰筋膜を介して腰椎・脊柱との連結を持つ構造的筋線維(広背筋–胸腰筋膜複合体)を有しており、体幹・腰部への影響も無視できない筋肉です。その為、腰椎伸展方向への貢献や、体幹安定性への補助的機能を持ち、特に背筋群や多裂筋群と協調して働く一面もあるのです。

加えて、広背筋は強制呼気(咳・くしゃみ)時に胸郭を圧迫・変形させる補助筋として働くことも知られており、呼吸系との機能的関連もあります。

山田
このように広背筋は、上肢運動、体幹・骨盤連鎖、呼吸機能と複合的な役割を担っているので、臨床では局所に拘らず広い視点で観察し、評価やアプローチを考えてみましょう

 臨床的有用性とリバビリテーション

広背筋の短縮・過緊張状態は、手を挙げた状態で体幹を逆側に倒していくと緊張度合いが観察できます。その際には肩の上がりや疼痛、突っ張り感などを確認しましょう。

また機能的評価では本人に、広背筋が関与しうる動作(懸垂、プル系、ローイング、スイミング、水泳動作、体幹引き上げ動作など)を行ってもらいます。その際に肩甲骨が動いているか?胸郭可動性は担保されているか?肩関節可動域は正常か?動作時痛はあるか?などを観察して機能的な制限がないか確認しましょう。

リハビリテーションとしてはストレッチなどで柔軟性を改善するのが代表的なアプローチです。
上肢だけではなく、体幹の屈曲や回旋なども合わせて体全体でストレッチを行うとより筋肉が伸ばされます。
徒手療法では、腋窩後方部や肩甲骨下角部、胸腰筋膜部など癒着や硬結が出来やすい部位に対してアプローチを行うと良いでしょう。

また筋力強化ではプルアップ、ラットプルダウンなどの引く運動を用いて行うことが一般的です。
ただし、フォーム(肘角度・前腕回旋・肩甲骨位置)の変化によって広背筋の筋活動が変わる点に注意が必要です。
リハビリテーションでは広背筋の全体的な筋活動を促したいので、1つのフォームだけではなく、様々なフォームを試して1箇所への単一的な刺激は避けるようにしましょう。
他にも体幹の安定性の向上の為に、脊柱安定化運動(ドローインなど)を行いながら自動運動でのストレッチを行うのもバランス能力や協調性のトレーニングとしてオススメです。

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 まとめ

どうでしたでしょうか?

広背筋は、その広がる起始・複雑な筋膜連結・捻転腱構造・多点停止という構造的に複雑性を持つ為、様々な機能を有している筋肉です。
ですので、一つの手法やリハビリ方法に固執せずに、肩・腰などの広い範囲に目を向けてアプローチを考えてみることが大切です。

ご紹介した広背筋の解剖学に関して何か皆さんの臨床へ活用できる内容があると嬉しいです。