「腰痛改善にはバランス能力の再構築が鍵」― 神経筋制御の再教育の重要性

こんにちは。整体サロンpirka-ピリカ-の山田です。

腰痛は現代社会で最も多い運動器疾患の一つであり、世界的にも生涯有病率が約80%に達するほど身近な疾患の一つです。
その中でも特に、慢性的な腰痛は筋力低下や柔軟性不足といった単純な要因だけではなく、バランス能力や運動制御の障害が深く関与していることが、近年の研究で明らかになってきています。

現在も腰痛に対する運動療法は筋トレやストレッチを中心に行われていますが、”身体の使い方”を再教育するトレーニング、すなわち「コーディネーショントレーニング」の重要性も注目されています。
これは、筋力強化だけでなく、神経筋協調やバランス能力を改善し、日常生活での動作の安定性を高めることを目的としています

本記事は筋力トレーニングやストレッチ以外の腰痛に対するアプローチや視点を解説し、施術の幅を広げる一助になればという想いで書いていきます。

整体師、柔道整復師、理学療法士、鍼灸師、セラピスト、トレーナーといった身体についての専門職の方々の臨床への一助になれば幸いです。

科学的論文の見方についての考察 ―比較検討の重要性

2025年10月7日

 腰痛とコーディネーション能力の関係

腰痛保持者では、健常者と比較して重心動揺(重心のブレ)が大きいことが複数の研究で報告されています。
特に、腰部多裂筋や腹横筋といった体幹の深部筋群の反応遅延や運動制御の乱れが、バランス低下に直結していることがわかっています。

一例では「腰痛患者は姿勢変化や不安定な状況下で、体幹筋群が適切なタイミングで収縮できず、過剰な脊柱伸展や骨盤前傾が起こりやすい」といったような事が挙げられます。
このような運動制御のズレが起こることで繰り返し腰部にストレスを与えて慢性腰痛の悪循環を形成すると考えられています。

また、腰痛保持者に対して特定のバランス課題を与えたところ、体幹筋群の再学習によって痛みの軽減がみられたことも報告されています。

山田
筋力強化や柔軟性改善の他にも「バランス能力の強化」もアプローチ対象になる事を覚えておくと施術の幅が広がります

 コーディネーショントレーニングの理論的背景

コーディネーショントレーニングとは、筋力よりも神経系の学習と適応を重視するトレーニングであり、
ドイツのスポーツ科学者マルクス・グロスマンらによって体系化された「7つの能力モデル」が有名です。

コーディネーション能力の要素説明
リズム能力:動作のリズムを正確に再現する力
バランス能力:姿勢を安定的に保つ力
反応能力:外的刺激に対して適切に反応する力
連結能力:複数の関節や筋群を協調的に動かす力
変換能力:動作を素早く切り替える力
定位能力:自身の体の位置を空間的に把握する力
識別能力:動作の力加減を適切に調整する力

そして腰痛保持者にとって特に重要なのは、バランス能力・連結能力・定位能力の3つである。
これらの能力は、体幹と四肢の協調動作に密接に関わり、日常動作(立ち上がる・歩く・物を取るなど)を安全かつ効率的に行う基盤となっています。

 コーディネーショントレーニングの臨床的有用性

今回はコーディネーション能力の中のバランス能力について書いていこうと思います。
バランス能力トレーニングでは、腰痛患者において以下の効果が確認されています。

バランストレーニングによる効果
①体幹筋の反応時間改善
→深部筋の反応遅延が改善し、外乱に対する安定性が向上する。
②痛みの軽減と恐怖回避行動の減少
→バランストレーニングにより「動かす恐怖(kinesiophobia)」が減少し、自己効力感が向上する。
③姿勢制御の改善と再発予防
→重心動揺の減少が見られ、腰痛の再発率が低下する。

特に注目したいのが「動的バランストレーニング」です。
静的な片脚立ちやプランクに加え、
・バランスボード上での体幹制御
・不安定マット上でのスクワット
・リズムに合わせた体幹回旋動作
など、不確実性を伴う状況での安定化練習が有効だと考えられています。

これらは単なる筋トレではなく、中枢神経系の運動学習を刺激し、体幹−四肢間の協調性を再構築・改善するアプローチになります。

コーディネーショントレーニングと心理的要素

腰痛患者に共通する問題として、「動かすことへの不安」「再発への恐怖」など、心理的抑制要因があると言われています。
この点において、コーディネーショントレーニングは心理的介入としても有用です。

なぜかというと、単調な筋トレと異なりバランス課題や動的運動は「遊び感覚」や「チャレンジ性」を含み、
神経系の可塑性だけでなく、報酬系ドーパミンの活性化を促し、運動継続を後押しする可能性があります。

臨床的には「正しく動かすことで痛みが減る」という成功体験の再学習が、運動恐怖を低減して疼痛の感覚を抑える働きも持ちます。

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2021年6月24日

 おわりに

腰痛を改善するうえで、筋力強化だけにとどまらず、神経系・バランス能力・運動制御の再学習を行うことが実は不可欠なのです。
その為に臨床で使える一つのアプローチ方法がコーディネーショントレーニングなのです。

「痛みを取る」ではなく「動きを取り戻す」。
その視点を持つことで、施術者としてより長期的で再発しにくい腰痛改善プログラムを提供できるようになる可能性があります。
今回ご紹介した記事で何か皆さんの臨床へ活用できる内容があると嬉しいです。

参考:(Silfies et al., 2009)(Macedo et al., 2016)(O’Sullivan et al., 2005)(Schmidtetal.,2018)(Moseley&Butler,2017)