股関節の構造と機能〜基礎から運動メカニズムまでを専門家が解説

こんにちは。整体サロンpirka-ピリカ-の山田です。

運動器の中で重要な部位として股関節が挙げられるかと思います。
股関節は腰痛や股関節痛、骨盤の歪み、坐骨神経痛、腰椎ヘルニアなど様々な病態で重要な要素になります。

しかし股関節は周辺の筋肉が大きかったり、構造が他の関節と比べて複雑な為、いつも施術家を悩ませる部位となっています。
例えば肩関節は国家試験の頻出問題ということもあり、詳細な構造の話を授業でも取り扱う学校が多いですが、股関節は細かい問題があまり出ない為、重要な要素以外は大まかな理解に留まることが少なくありません。

今回はそんな股関節の構造と機能を解剖学書に基づいて分かりやすく解説していきたいと思います。
整体師、柔道整復師、理学療法士、鍼灸師、セラピスト、トレーナーといった身体についての専門職の方々の臨床への一助になれば幸いです。

科学的論文の見方についての考察 ―比較検討の重要性

2025年10月7日

 股関節の構造

股関節は、寛骨臼と大腿骨頭からなる球関節であり、人体で最も安定性が高く、同時に可動域も広い関節の一つです。この相反する特性は、その特徴的な構造によって成り立っています。

1.骨性の適合性

股関節の安定性に最も寄与しているのが、骨性の適合性です。寛骨臼は大腿骨頭の約3分の2を包み込む深いソケット構造をとっています。この構造は、他の関節では見られない高い適合性であり、関節の静的な安定性を担保しています。

【股関節の骨性構成要素】
・寛骨臼:腸骨、坐骨、恥骨の三つの骨が合わさって形成されています。この寛骨臼の向き(傾斜角や前捻角)は個人で異なり、これが股関節の可動域やインピンジメント発生リスクに影響を与えています。
・大腿骨頭:大腿部の近位端であり、寛骨臼に嵌る部分。ほぼ完全な球状をしており、そのおかげで寛骨臼内でスムーズに回転が可能です。

寛骨臼の被覆率が低い・あるいは前捻角が大きい場合は、股関節を構成している軟部組織へのストレスが増大する可能性が示唆されています。この骨性の適合性は怪我のリスクや病態の状態が変わるくらい股関節にとって重要な要素だと覚えておきましょう。

2.関節唇の構造

股関節の関節唇と軟骨は、上記でご紹介した骨性適合性をさらに強化し関節の密閉性を確保しています。
関節唇は股関節の外縁を囲うように存在しており、様々な働きを持っています。

関節唇の機能
1.寛骨臼の深さを約21%増加させ、大腿骨頭との接触面積を拡大することで、荷重分散能力を向上させている。
2.関節内圧を陰圧に保ち、関節液の循環を助け、潤滑機能を維持している。
3.豊富な神経終末を有していて、固有受容感覚(関節の位置覚や動きの感知)に寄与している。

股関節の関節唇が損傷すると、関節の密閉性が損なわれてしまい、大腿骨頭が寛骨臼内で微細不安定性(マイクロインスタービリティ)が生じることがあります。
微細不安定性によって軟骨の変性、変形性股関節症(OA)へと進行するリスクを高めることが論文などでも示唆されています。

特に深い屈曲や内旋動作は関節唇の負荷が大きいので関節唇の損傷がある場合は注意する必要があります。

3.靭帯の構造

股関節の静的安定性は、骨性適合性と関節唇に加えて、強靭な3つの外在性靭帯(大腿骨と寛骨を結ぶ靱帯)によって確立されています。
これらの靭帯は、立位姿勢の保持や、股関節の過度な伸展を防ぐ上で重要な役割を果たしています。

3つの靱帯
・腸骨大腿靭帯:股関節の前方と上方に存在しており、体内で最も強い靭帯とされています。Y字靭帯とも呼ばれ、主に股関節の伸展と外旋の制限をしています。また立位時はこの靭帯の緊張によって、股関節周囲筋の活動を最小限に抑えるはたらきもあります。
・恥骨大腿靭帯:股関節の前方と下方に存在している靱帯です。股関節の伸展と外転を制限しています。
・坐骨大腿靭帯:股関節の後方に存在している靱帯です。股関節の伸展、内旋を制限しています。

これらの靭帯は、構造上の特徴として、股関節が伸展位にあるときに最も緊張し、安定性を高めます。
一方、股関節が屈曲位にあるときは弛緩し、可動域が最大化されます。

なので、骨盤前傾(股関節屈曲位)が過度な人は、これらの靭帯による静的安定化機能が十分に活用されずに、筋の過剰な活動(特に腸腰筋や大腿直筋などの股関節屈筋群)に頼っている可能性があります。
これは、慢性的な腰痛や股関節痛の原因となり得ます。

 股関節の関節運動学

股関節は球関節であり、3つの自由度(屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋)を持ちます。
これは、人体の中でも肩関節に次いで自由度の高い関節であり、歩行、走行、跳躍といったダイナミックな動作の基盤となります。

ではさっそく、股関節の運動を運動面に分けて解説していきます。

・矢状面運動:屈曲と伸展。
屈曲は約120度(骨盤固定時)、膝を曲げた状態では約140度まで可動性があります。
伸展は腸骨大腿靭帯の制限を受けるので約20度程度の可動域です。

・前額面運動:外転と内転。
外転は約45度、内転は約20〜30度の可動域です。

・水平面運動:外旋と内旋。
回旋の可動域は個々人で大きく異なり、外旋は約50度、内旋は約30〜40度が目安です。しかし寛骨臼の前捻角や大腿骨の骨盤に対する相対的な位置にも強く依存するので個体差があります。

特に内旋と外旋の可動域バランスは、下肢のアライメント、膝関節や足関節の機能に連鎖的に影響を及ぼすため、臨床では着目すべき点でもあります。

例えば、股関節の回旋可動域(特に内旋制限)があると、大腿骨寛骨臼インピンジメント、変形性股関節症(OA)、膝蓋大腿疼痛症候群、ハムストリングス肉離れなどの発症リスクを高めます。理由としては内旋制限によって歩行や走行時の衝撃吸収において股関節が果たすべき回旋動作が阻害されるので、その代償として膝関節や腰椎に過剰なストレスがかかるからです。
※歩行の接地時に股関節が内旋してブレーキをかける役割がある。

山田
股関節の可動域制限は股関節に症状が出る場合もありますが、代償運動などで腰部や膝関節など隣接する関節に症状が出る場合も多いです。

 臨床での股関節構造と運動の理解

股関節の安定性や運動は、多くの股関節周囲筋群の影響ももちろん受けています。
大殿筋や中殿筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、深層外旋六筋(梨状筋、上・下双子筋、内・外閉鎖筋、大腿方形筋)などの筋群は、股関節の動的な安定性を保持しながら運動に関わります。

股関節の疼痛の原因を探るときには筋緊張はもちろん調べましょう。
その他にも今回解説した骨性の変異や関節唇の損傷、靭帯の機能不全が関与していないかも必ず確認する必要があります。

また、股関節のリハビリテーションやトレーニングの進め方としては必ず下記のような順序を意識しましょう。


1.静的安定性の確保
:腸骨大腿靭帯の伸展制限を解除し、適切な骨盤ニュートラルポジションを確立するなど
2.動的安定性の確保
:中殿筋など遠心性収縮能力、深層外旋六筋による骨頭の求心性機能の回復など
3.複合的運動連鎖の再習得
:歩行、走行、スクワットなどの複合的な動作を通じて、股関節、膝関節、足関節の運動連鎖が最適化を目指す。この時に股関節回旋制限が代償動作を引き起こしていないかなどを確認しながら行うと再発防止になります。

股関節自体の疼痛は臨床では少ない症状ではあります。
しかし股関節が原因で、他の関節や筋肉に負荷がかかり疼痛を誘発することはよくあることは覚えておきましょう。

 まとめ

どうでしたでしょうか?

股関節の構造と運動を深く理解することは、「なぜその動作で痛みが生じるのか」、「なぜこの筋を強化する必要があるのか」という、プロとしての根拠を明確にし、お客様への説明責任を果たす上で極めて重要です。

この記事が身体についての専門職の方々の臨床への一助になれば幸いです。