中殿筋の解剖学的基礎と臨床的有用性について考えよう-解剖学シリーズ

こんにちは。整体サロンpirka-ピリカ-の山田です。

中殿筋は股関節外転筋群の一つであり、骨盤の安定性や歩行動作、スポーツにおいて極めて重要な役割を果たします。臨床現場では腰痛、股関節痛、膝関節痛など多岐にわたる症状に関連して取り上げられることが多い筋肉でもあります。
この記事では、中殿筋の基礎知識と臨床的有用性について近年の論文を基に整理しつつ解説していきたいと思います。

整体師、柔道整復師、理学療法士、鍼灸師、セラピスト、トレーナーといった身体についての専門職の方々の臨床への一助になれば幸いです。

 中殿筋の解剖学的基礎

中殿筋は寛骨の腸骨外面から起始し、大転子外側面に停止します。
筋腹は大きく前部・後部に分けられ、前部線維は股関節の内旋と屈曲と外転、後部線維は外旋と伸展と外転に寄与します。

起始:腸骨(腸骨翼の外面と外唇)、臀筋膜
停止:大転子外側面
神経支配:上殿神経(L4〜S1もしくはS2)
作用:股関節外転・屈曲・伸展

この多面的な作用により、単純な外転筋ではなく、股関節運動全般において骨盤周辺の安定化を担う筋として作用します。

 中殿筋と骨盤・股関節安定性

歩行中、立脚期における中殿筋の活動は対側骨盤の下制を防ぎ、腰椎や股関節へのストレスを軽減する作用があります。また中殿筋機能不全は腰痛や股関節障害のリスク因子であることを指摘されており、その重要性はリハビリ分野においても広く認識されています。

さらに、歩行や片脚立位の際に骨盤を水平に保持する働きは特に重要であり、中殿筋機能低下で起こる対側の骨盤下制は「トレンデレンブルグ徴候」と呼ばれます。

 臨床における中殿筋機能不全の影響とリハビリテーション

中殿筋の弱化や筋発揮低下は、股関節だけでなく腰椎や膝関節、足関節への二次的障害を引き起こします。
特に膝外反の増大(FTAの増大)は前十字靭帯損傷のリスク因子であり、中殿筋機能低下が動的アライメント異常の一因となります。

また、ランナー膝や腸脛靭帯炎といったスポーツ障害にも関連が深く、トレーナーは必ず注意して評価したい部位です。

他にも腰痛患者において中殿筋の筋力低下や収縮遅延が報告されており、腰痛との関連性も強い筋肉になります。

中殿筋の機能改善を目的としたアプローチとしては、筋力強化と神経筋再教育を中心に行われることが多いです。
実際に提供されるトレーニングやエクササイズとして、サイドプランク+股関節外転やクラムシェル運動、モンスターバンドウォーク、シングルスクワットなどが代表的なものとして挙げられるでしょう。
ただし、単純に「中殿筋を鍛える」だけではリハビリテーションとして結果が出づらい為、他の股関節周囲筋や体幹筋、大腿部周囲筋との協調性を考慮しながら全体的な運動やトレーニングを考えることが重要であるといえます。
もちろん症例や状態によって強度や運動難易度の調整は必ずするように心がけましょう。

ワンポイント
中殿筋は運動よりも関節や姿勢の安定性に大きく寄与する筋肉なので、短関節の運動で考えるより全身運動時にいかに協調性を保って機能できるかを意識してメニューを考えるのが大切です。

 論文による僧帽筋の機能形態の特徴

中殿筋の解剖学的構造として、外側広筋などの大腿にある筋に比べてtypeⅡ線維数が全体の3割程度でありtypeⅠ線維数が優位な筋であると分かっています。このtypeⅠ線維はミオグロビン量が豊富で収縮速度は遅く持続的な収縮が得意であるという特徴を持っているので、その事から中殿筋は股関節の関節運動ではなく、関節の安定性や姿勢の保持の役割が強い筋肉だということが理解できます。

また中殿筋は前部と後部に分ける事ができるとされています。(前部2つと後部1つ、合わせて3つに分ける研究もありますが前部の2つは明確に分ける事が難しい)
股関節屈曲0度では大腿骨長軸方向と一致する前部線維の筋発揮が強く、屈曲が強くなると大腿骨長軸方向に近づく後部線維が優位になってきます。
ですので筋発揮の弱くなる角度によってアプローチする部位を考えていくとより細かい対応が可能になるかと思います。

股関節の角度によって中殿筋全体の筋出力も変わります。股関節屈曲(骨盤前傾)になると中殿筋の筋出力が低下することも覚えておきましょう。反り腰(骨盤前傾)や大腿四頭筋短縮による股関節伸展制限も中殿筋の障害につながります。

山田
股関節伸展制限は多くの人に見られるのでアプローチの引き出しとして有用です

神経支配は上殿神経ですが、梨状筋開口部分から2股に分かれて中殿筋前部と後部を支配しています。症状が確認出来る部分によってアプローチをかけるポイントをずらす必要もあるでしょう。

科学的論文の見方についての考察 ―比較検討の重要性

2025年10月7日

 まとめ

どうでしたでしょうか?

中殿筋は人体で最も大きな関節である股関節の安定性や骨盤の姿勢維持に不可欠な筋肉です。
股関節の不具合は腰部や下肢などに広範囲に影響を与えますので、臨床では必ず確認すべき筋肉の一つだと言えるでしょう。

また中殿筋のリハビリテーションをする際には中殿筋の単独評価のみではなく、腰椎や膝関節などの他関節も含めた運動やエクササイズプランを構築していく必要があります。

身体についての専門職の方々の臨床への一助になれば幸いです。